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H2Hマーケティング実践編 
「正義とは?・その24:
費用便益分析

「費用便益分析」とは、あらゆるものごとを貨幣価値に換算し、それらを比較することで複雑な社会的選択に合理性と厳密さを持ち込もうとするもので、政府や企業で意志決定手法として様々なところで使われています。

サンデルは、批判を浴びた「費用便益分析」の事例をいくか紹介しています。1つ目は、タバコ税の増税をしようとしたチェコ政府に対して、フィリップ・モリスが提出した国家予算に対する喫煙の影響の費用便益分析レポートです。要約すると、喫煙者は早死にするため、政府は医療費、年金、高齢者向け住宅などにかかる費用を年間1億4700万ドル節約できるというものでした。実際にそうかもしれませんが、これは大きな反発を買い、フィリップ・モリスのCEOは「人間の基本的価値を完全に無視した受け入れがたいものだった」と謝罪に追い込まれました。

2つ目はフォード社で、追突時に爆発の危険性があるガソリンタンクの安全性を高めるために部品を追加すべきかどうかの経営判断で使われた費用便益分析で、ガソリンタンクを改良する費用は車両の安全性を向上させる便益に見合わないという結論を下したというものです。これに対して、事故被害者が訴訟を起こし、試算内容を知った陪審員たちが激怒し、原告であるフォード社に対して、250万ドルの補償的損害賠償と1億2500万ドルの懲罰的損害賠償を認めたという事例です。

費用便益分析とは、ようするにコストパフォーマンスの評価ということになりますが、本来費用に換算しにくい(当事者からすれば換算してほしくない)健康、命、安全性などを、実際上の施策内容と天秤にかけること自体がそもそも反発を買うことなるわけです。

上の2つは民間企業の例ですが、行政や政府系機関なども様々な政策評価に費用便益分析が行われており、判断が下されています。

有名なところでは、福島第一原発で「蒸気凝縮系機能」という冷却システムが予算の無駄という理由で2003年に10億円をかけてわざわざ撤去されており、国会で地震や津波に対する安全対策上問題があると指摘されても、大丈夫、問題ないという答弁で国も東電も押し通し、それが2011年の爆発事故の原因の一つになってしまったということがあります。

しかし、こうした批判や悲劇にも関わらず、功利主義者は、命や安全に値段をつけることをためらう性向について、克服すべき衝動、明晰な思考と合理的な社会的選択を妨げるタブーだとみなしています。

一方、功利主義の批判者たちは、私たちの逡巡が道徳の重要性を示唆するもので、あらゆる価値と事物を単一の尺度で測り比較することは不可能ではないかと言い、議論は平行線のままのようです。

現実の社会では、行政も民間企業もコスパ重視でものごとが判断されることが多いようです。

脱原発を主張する人たちも、今回の米国・イスラエルによるイラン攻撃で石油が高騰、今後それが長引いて行けば、ガソリンだけでなくあらゆる商品・サービスの価格が上昇していくため、原発容認の方向へ変わっていく人も出てくるのではないかと思われます。

次回は、功利主義の擁護する立場をとった『自由論』のジョン・スチュアート・ミルの主張と、それに対するサンデルの解説を紹介します。

(by インディーロム 渡邉修也)

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