H2Hマーケティング実践編
「正義とは?・その22:
ベンサムの功利主義
道徳をついて考えるための素材としてサンデルが最初に紹介するのは功利主義です。
功利主義の創始者は、産業革命期のイギリスに生まれたジェレミー・ベンサムです。彼が確立した功利主義の原理は、その後の政治、経済、行政、法制度などに多大な影響を与え、今も世界はその影響下にあると言えるでしょう。
サンデルは、ベンサムの功利主義の要点と、それ対する典型的な反論を紹介しながら功利主義とはどういうものかを解説していきます。
ベンサムの功利主義の中心概念はシンプルで「道徳の至高の原理は幸福、すなわち苦痛に対する快楽の割合を最大化すること。正しい行いとは『効用』を最大にするあらゆるもの」というもので、これが「最大幸福原理」と呼ばれるものです。
ベンサムは、法律家で、法制改革者でもあったので、個人の幸福にとどまらず、効用の最大化を立法者の原理にも拡張していきます。「どんな法律や政策を制定する際には、政府は共同体(コミュニティ)全体の幸福を最大にするためのあらゆる手段をとるべきだ」と主張します。
ベンサムは「コミュニティとは、それを構成する個人の総和からなる『架空の集団』であり、市民や立法者は、政策の利益のすべてを足し合わせ、すべてのコストを差し引いたときに、その政策がほかの政策より多くの幸福を生むのか、と問い続けるべきだ」と言います。
「効用の最大化」という言葉は、とても重要です。幸福、快楽の最大化と言っている分には漠然として数値化は難しいわけですが、幸福を最大化するための政策コストという話になると、途端に計量可能なものに見えてきます。
ベンサムは「効用最大化を拒否する根拠はない」、「あらゆる道徳的議論は、暗黙のうちに幸福の最大化という考え方に依存せざるを得ない」と言います。
「ある人が効用の原理に戦いを挑もうとするとき、その人は気づかないうちに、戦おうとする原理そのものから戦う理由を導き出している」、「道徳についてのあらゆる論争は、正しく理解すれば、快楽の最大化と苦痛の最小化という功利主義原理の適用方法をめぐる対立であり、原理そのものをめぐる対立ではない」。
ベンサムによれば「道徳をめぐる議論の唯一の足場、唯一の前提、唯一の出発点は効用の原理」ということです。
ベンサムは、効用の原理は道徳の科学を提供するものであり、この科学は政治改革の基盤として役立つと、法制改革者として考えていたようです。
ベンサムは、実際に効用原理に基づく具体的な政策を政府に対して色々提言していたようで、円形刑務所(中心に監視塔があり受刑者から見られることなく監視できる)や救貧院(路上の物乞いを捕まえて働かせ、救貧院での生活費を賃金から差し引く)といったプランを提案していたようです。(円形刑務所は採用され、救貧院は採用されなかったようです。)
次回は、ベンサムの功利主義の考え方に対する典型的な反論をみていきたいと思います。
(by インディーロム 渡邉修也)


