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H2Hマーケティング実践編 
「正義とは?・その14:
最も不遇な人びと」

「社会の基礎構造に正義の二原理を適用する際には、一定の地位を代表する個人を取り上げ、その地位にある人びとの目に社会システムがどのように映るかを考察することになる」

ロールズは「社会的地位とは適切に一般化されかつ集計されたスタート地点に相当する」とし、地位(=スタート地点)を選び一般的観点を指定させる作業を通じて「正義の二原理が自然的偶発的および社会的運/不運の恣意性を緩和・軽減しようと企てるものである」という理念がかなえられるとしています。

ロールズは、地位について「対等な市民として暮らし」という地位と「所得および富が分配された境遇によって規定される地位」に分けて論を進めます。

「対等な市民として暮らし」の地位について、ロールズは平等な自由の原理と公正な機会均等が要求する権利と自由によって定義されるとし、この2つの原理が充たされている状態であれば、その社会は全員が対等な市民となるため、この地位(=対等な市民として暮らし)を保持できる、としています。

一方、「所得および富が分配された境遇によって規定される地位」については、経済的に恵まれた人びとはの代表者を選ぶのは、それほど難しいことではないとし、「最も不遇な人びと」をどのようにして選ぶべきかという話へ進みます。

ロールズは「最も不遇な人びと」として以下の3つをあげています。

  1. 生まれ落ちた家族および階級が他の人びとよりも不利な人びと
  2. (実現された)自然本性的な[才能や資産の]賦存がそれほど豊かな暮ら しを許さない人びと
  3. 人生行路における運やめぐり合わせがあまり幸福な結果をもたらさない人 びと

ロールズは、これら3種類の人びとは、すべて[極端なばらつきのない]通常の範囲に分布しており、社会的基本財に基づく適切な比較尺度を備えている、としてます。

ここで注目すべきは、ロールズは考える「最も不遇な人びと」とは、特殊な境遇や事情を背景にもつ少数派の人びとのことを指すわけではなく、統計上、通常の範囲内に分布する一定のボリュームをもった階層ということになります。

これについてロールズは「正義の一番目の問題はあくまでも、社会の日々の運営に全面的かつ能動的に参画しつつ、生涯を通じて仲間と共生・連携する人びとと相互の諸関係を扱うこと」だとし、したがって「格差原理は、社会的協働に従事する市民たちに適用されるべきものである」としています。

最も恵まれないグループの識別・同定方法について、ロールズは、1つのやり方として、特定の社会的地位(例えば、未熟練労働者の地位)を選び、その地位にある人びとの所得・富とほぼ同等かそれ以下に人びと全員を最も恵まれない人びとと判別する方法です。

もう一つは、社会的地位を選定せず、シンプルに所得・富の相対額で切り分ける方法で、例えば「所得・富が中央値の半分以下の人びとは、全員が最も不遇な階層」だと見なすもので、ロールズは、こちらの規準の方が、最低所得者層と平均的市民との社会的距離に絞り込める利点があるとしています。

どちらの規準を選ぶにしても、多様な偶発性のせいで最も恵まれない暮らしを強いられた人びとをカバーするとともに、妥当なソーシャル・ミニマム(社会的最低生活)の水準を設定し、社会が格差原理を充足する着手点を提供してくれるとロールズは考えています。

ロールズは「実践上の配慮事項を申し立てする正当な資格を私たちは有している。原初状態にある人びとはこうした重要事項を理解しており、格差原理を(他の選択肢との比較考慮して上で)しかるべく評定するもの、と私は想定する」としています。

次回は「原初状態」についてのロールズの解説を見ていきます。

(by インディーロム 渡邉修也)

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