H2Hマーケティング実践編
「正義とは?・その13:
ロールズの格差原理」
<デモクラティックな平等>は、正義の第二原理の4つの構想のうち、「公正な機会均等」と「格差原理」を掛け合わせたものですが、「格差原理」が分かりにくいので、少し詳しく見ていきたいと思います。
格差原理とは、社会的・経済的な不平等があるという現実を認めた上で、それが許されるのは、最も恵まれない人々の境遇が最大限に改善される場合にのみに限られる、というものです。
ロールズは「社会秩序は、そうすることが運に恵まれない人びとのましな暮らし向きに資さない限り、より裕福な人びとの予期をさらに魅力あるものにしたりそれを保護したりするものであってはならない」という言い方をしています。
かなり大雑把に平たく言えば、社会でも最も恵まれない境遇にある人の生活の向上を最優先した制度設計をすべき、ということになります。
「分配」について考える際、最初に思いつくのは「均等配分」でしょう。10人いたら、ピザを10等分に切り分けて、1つずつ配るのが正しいという考え方です。現実の政策だと、収入の多寡に関係なく、子ども一人につき5万円を給付するという子育て支援策のようなものです。
一見すると、平等で正義にも適っているようですが、ちょっと考えると分かる通り、同じ5万円を配ったとしても経済的に厳しい家庭では、本当は子どものために使いたいと気持ちがあったとしても、給付されたお金が食費・光熱費、借金返済に消えてしまい、子どもの教育費まで到達しないということは往々にしてあるではないでしょうか。
一方、経済的余力のある家庭では丸ごと教育費に充てることができるわけで、これでは益々格差が広がるだけです。
分配前の状態には必ずなんらかの格差があるはずで、そうした格差を是正するような制度設計をするのが正義に適ったやり方だとロールズは考えるわけです。
「格差はあるはず」となると、次は「どのように制度設計をすべきか」という問題になってきます。
不確定な将来に関する意志決定方法の一つに、「マキシミン・ルール」というものがあります。「最悪の結果が最大限に良いものになるように行動する」というものです。
ロールズの<無知のヴェール>とは、このマキシミン・ルールの考え方を発展・徹底させた思考実験をしてみましょうというものです。
無知のヴェールを被ることで、自身の生まれ、能力、現在の境遇、人間関係、立場など、すべて知らない無知の状態になったしたら、どのような社会のあり方、制度設計が望ましいと考えるのか。
「ヴェールを外したら、自分はこの世の中で最も不遇な境遇かもしれない」という可能性もあるため、人びとはきっとマキシミン・ルールに従い、最も条件の良くない境遇の場合であっても、社会の成員として生活と権利をしっかりと確保できるような社会のあり方や制度設計を選択するのではないかというものです。
「格差はある」という前提に立った時、それを出来るだけ是正していくための分配を考えるべきという「格差原理」を採用する<デモクラティックな平等>の方が、<自然本性的自由の体系>や<リベラルな平等>よりも、より<公正として正義>に適っているとロールズは考えるわけです。
この考え方は、「最大多数の最大幸福」、「社会全体の効用が最大化するのが善」と考える功利主義とは、真っ向から対立するものです。
(by インディーロム 渡邉修也)


