H2Hマーケティング実践編
「正義とは?・その8:
優先すべきものは何か」
「正義/不正義に関して私たちが下すしっかりした判断に、体系的な説明を施すことがどの程度まで可能か」
正義/不正義は、人それぞれで異なります。ある人にとって正義であっても、他の人にとって不正義ということもあり得ます。人びとの直感に依拠した複数の正義が林立し競合するわけです。
古典的功利主義は、直感を排除し、もっとシンプルに(単一原理によって)、物事を判断していこうとするものです。
その単一原理が「効用原理」ということになります。
「社会に帰属するすべての個人の満足を総計した正味残高が最大となるよう、主要な制度が編成されている場合に、当該の社会は正しく秩序だっており、したがって正義にかなっている」とシジウィックがまとめている価値判断になります。
全体としてコスパ、タイパがよけば、個別・部分的に不利益が生じてもよい(仕方がない)とする考え方です。
ジョン・スチュアート・ミルは「複数の規準や原理の重みづけの調整作業に終止符を打つにはただ一つの基準が存在しなければならず、さもなければ競合する複数の規準を裁定することができない、それが効用原理なのだ」と考えていたそうです。
また、シジウィックについては「功利主義こそがそうした裁定者の役割を担いうる唯一の原理にほかならない」としています。
ミルやシジウィックの主張によれば、複数の指針が衝突する事態に直面したり、あやふやで不正確な観念を衝きつけられたりした場合、私たちは功利主義を採用する以外に選択肢はないのだ、ということになります。
こうした主張を受け、ロールズは、複数の原理が並立する事態を超克することができない可能性も認めつつ、以下のように語っています。
「にもかかわらず、私たちのしっかりした判断への直接的な訴えかけを少なくするよう、できる限り努力せねばならない」
「諸原理の重みづけが理にかなった倫理の規準によってどう決定されるべきかを、私たちが説明できないとすれば、合理的な論議の手立てはそこで息の根を止められてしまう」
「優先順序の問題に関する明示的な原理を定式化するために、できる限りのこと私たちは為すべきなのである」
このようにして、ロールズは、功利主義の「効用原理」に対抗し得るような、優先順序の問題に関する明示的な原理の定式化を、『正義論』の中で丁寧に、論じていきます。
その詳細はあまりにも長くなりますので、次回はロールズが深い思考の上に導き出した優先権の判断を下すための「正義の二原理」へと進んでいこうと思います。
(by インディーロム 渡邉修也)


