H2Hマーケティング実践編
「社会的責任とブランド・アクティビズム・その8:
ユヌスからの起業アドバイス」
ユヌスは「一般的な起業家は利潤を最大化するビジネスを探すが、ソーシャル・ビジネスの起業家は解決すべき社会問題を選び出し、それをビジネスの力で解決する方法を探す。利益は必要条件としては重要だが、最終目的にすべきではない。人間の本能の一つである「同情心(思いやり)」が出発点になる」と言っています。
20年程前、経産省のホームページで、ベンチャー起業を目指す人のためのアンチョコ的なパワーポイントが配布されていました。そこには、ノートにビジネスのアイデアを200〜300書き出し、儲かりそうなもの、ビジネスとしてモノになりそうなもので絞り込んでいきましょう、などと書かれていました(笑)。
ユヌスはソーシャル・ビジネスでの起業を目指す人に以下のようにアドバイスしています。
「まわりを見渡し、何に憤りを感じるか自問してみよう。何かを変えたいか?それがわかったら、問題の根本原因を探ろう」、「世界のあらゆる問題をリストアップするといいだろう。すぐに新品のノートが真っ黒になるはずだ」と。
ユヌスは、最初は簡単に対処できる問題を選んだ方がよく、壮大な夢を具体的で現実的な目標に置き換える方法を探すべきだと言います。
例えば「貧困の根絶」という壮大な社会的目標であれば「5人の貧しい人々になら仕事を与えられるのではないか」と考えてみる。そして「どのようにしたら、仕事を生み出せるのか?」と具体的な方法を探索してみることを勧めています。
「ソーシャル・ビジネスを設立する目的は、自分自身の金儲けではなく、雇用の創出だ」と言い、最初の5人の貧困を解決することができれば、少なくとも小さなスケールでの貧困の根絶に成功したことになり、あとは少しずつその対象を広げていけばよい、ということです。
また、ユヌスは、医療、金融、インフラ、食料、テクノロジーなど、社会問題の解決に直結できそうな技術や知識を持っていなくても、例えば、文学、音楽、ダンス、演劇などのアーティストや、そのほかどんな活動をしている人であっても、ソーシャル・ビジネスで活躍できる領域は見出せるはずだと言います。
途上国の場合、文化的な規範などで女性の社会進出が阻害されていることが多く、実際に、ユヌスたちも、夫に直談判して妻の就労に理解を得たりと、少しずつ旧弊を崩す努力をしてきたそうです。新しい文化を少しずつ築き上げ、進化させていく過程において、文化・芸術的な才能をソーシャル・ビジネスで発揮する領域は沢山あるということです。
また、解決したい問題がなかなか見つからない場合には、助けを必要としている集団を探し、その人々を助ける方法を考える手もある言います。高齢者、障害者、幼児、子ども、シングル・マザー、精神障害者、元囚人、ホームレス、失業者、依存症者、医療不足に悩む人々など、深刻なニーズを抱える人々を対象に、ソーシャル・ビジネスを発想するというものです。
発想のポイントとしては「顧客が支払った金額以上に稼いだり節約したりできる商品やサービス」を提供すべきだということです。
ユヌスが最初に手がけたマイクロクレジットの場合は、借りたお金を元手にして独自の事業を興すように促すことで、当事者の収入が増え、経済的にも自立できる可能性が広がる、という具合です。
立場の弱い人々に条件のよい仕事を与えること。仕事から利益を得る人々の数や、労働者一人ひとりが受け取る利益を最大化するということも、ソーシャル・ビジネスの目標となります。
(by インディーロム 渡邉修也)