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H2Hマーケティング実践編 
「社会的責任とブランド・アクティビズム・その7:
ユヌスのソーシャル・ビジネスとは」

今回は、SBEの先駆者であるムハマド・ユヌスの考える「ソーシャル・ビジネス」の定義や特徴について、彼の著作「ソーシャル・ビジネス革命」から紹介していきたいと思います。

経済学博士であるムハマド・ユヌスは、現代資本主義の最大の欠陥は、ビジネスを営む人間が一元的存在として描かれ、利益の最大化が唯一の目的とされていることだと指摘しています。

ユヌスは、人間は利己的な存在だが、同時に利他的な存在でもあり、経済理論から一元的な人間像を捨て去り、利己心と利他心を併せ持つ多次元的な人間像を取り入れるべきだとしています。

2種類のビジネスがあり、一つは個人的な利益を追求する従来型のビジネス、もう一つは、他者の利益に専念する、人間の利他心に基づく新しいビジネスの在り方であり、それがユヌスの考える「ソーシャル・ビジネス」なのだということです。

ユヌスの「ソーシャル・ビジネス」は、一般に考えられているSBEより、かなり厳格です。

ソーシャル・ビジネスは、すべてが他者の利益のために行われる。他者の役に立つという喜び以外、企業の所有者には報酬もない。ソーシャル・ビジネスの投資家の目的は、金銭的な利益を得ることでなく、他者に力を貸すことだとされています。

ビジネスであるからには持続可能でなければならないため、経費を穴埋めするだけの収益を生み出す必要がありますが、利益の一部はビジネスの拡大に再投資され、一部が不測の事態に備え内部留保されます。繰り返しになりますが、利益が出ても投資家への配当はありません。

ユヌスは、「損失なし、配当なしの会社」がソーシャル・ビジネスだと言い、社会的目標の追求だけがソーシャル・ビジネスの目的なので、個人が利益を得るという考え方はないと言い切っています。

ユヌスは、さらにソーシャル・ビジネスは、「社会事業」「社会的起業」「社会的責任ビジネス」とよく混同されるが、まったく異なるものであり、これらは「利潤最大化企業」の言い換えに過ぎないと言います。

なるほど、この連載の中でも、これらの用語について、似たような考えや目的をもった取り組みであるかのように紹介してきましたが、ユヌスによれば、それはまったく誤りであり、ソーシャル・ビジネスとは似て非なるものということになります。

利益の見込みのないビジネスに、どこから資金が集まるのでしょうか?

ユヌスによれば、これまで慈善事業に回されてきたお金がソーシャル・ビジネスの資金源になっているそうです。

また、ソーシャル・ビジネスの考え方が広まることで、多くの投資資金が営利企業からソーシャル・ビジネスへ回るようになり、従来、社会政策に使われてきた政府資金の一部もソーシャル・ビジネスに投じられ、さらに、営利企業の設立する社会的責任(CSR)ファンドについても(国によって法規制が異なるものの)ソーシャル・ビジネスで利用可能になると、ユヌスは考えています。

ユヌスは、ソーシャル・ビジネスは、飢饉、ホームレス、病気、公害、教育不足など、長年人類を蝕んできた社会問題、経済問題、環境問題の解決に専念するビジネスであり、人間の無私の心に基づく新しい資本主義になり得ると考えています。

この連載では、行き詰まった資本主義の出口や処方箋を求め、コトラーの「H2Hマーケティング」や、宇沢弘文の「社会的共通資本」などにヒントを求めてきたわけですが、ユヌスは脱貧困という地点から、もう一つの資本主義に辿りついているようです。

(by インディーロム 渡邉修也)

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