アンケートメーカー

H2Hマーケティング実践編 
「食料安全保障とは・その10:
種苗法改正の問題点」

前回は、日本の「食の主権」にとって、種子法の廃止と農業競争力強化支援法の施行が、いかに深刻なダメージを与えているか、その一端をお伝えしましたが、さらにとどめを刺すように行われたのが、種苗法の改正です。

種苗法改正は、上の2つの法案と同様に、国会で十分な審議が行われないまま2020年12月に成立し、2021年4月から施行されたものです。

改正の趣旨は、種や苗の育成者権者(都道府県や農研機構、種苗メーカーなど)の権利の保護・強化にあります。主な改正内容は次の通りです。

  1. 海外への種苗の持ち出しの制限
  2. 国内の栽培地域の指定
  3. 登録品種の自家増殖禁止(許諾が必要)
  4. 登録品種の表示義務化

海外への種苗の持ち出しの制限については、シャインマスカットの苗の海外流失と、海外生産されたシャインマスカットが日本市場を荒らし、国内生産者を脅かしているといった報道を覚えている方も多いと思います。今回の改正でそうした事態を防ごうという訳です。(ただし、専門家によると、そもそも海外で適切な商標登録さえしておけば、こうした法律なしでも防げた問題でもあるそうです。)

国内の栽培地域の指定は、栽培の許諾を得た生産者だけがその登録品種の生産ができるようにしようというものです。つまり、許諾料を払わなければ生産できないようにする、というものです。

3番目の「登録品種の自家増殖禁止」が、今回の改正でもっとも問題視された点になります。元々、農家では、自分の田んぼや畑で育てた稲や大豆などの中で、出来のよいものを種籾としてとっておき、翌年以降に播いて育てるというサイクルを繰り返してきました。これがいわゆる「自家増殖」と呼ばれるもので、戦前まではこれが当たり前のことでした。

実は野菜や果物については、1960年代頃から拡がったF1品種と呼ばれる “1代限り” の種が大半を占めるようになっており、農家は毎年新しいF1品種の種を購入するようになっています。実質上、野菜や果物については、育成者権者の権利がほぼ確立している状態かと思われます。

育成者権者の権利が護られるのは当然で、許諾料を支払うのも当然です。では、何が問題なのでしょうか?

前回、前々回に見てきたように、種子法の廃止によって農業試験場の役割が終わったと一方的に宣言され、その予算が今後縮小されていく見通しが強まっています。また、農業競争力強化支援法によって、農業試験場が大切に護ってきた品種の情報を民間へ開示・提供するようにされました。

この2つと、今回の種苗法の改正が合わさると、どのようなことが今後起こってくるのか、ということになります。

農業試験場が護り、安価に提供してきた品種の種籾や苗は、民間事業者によって品種改良を加えらえ、民間事業者によって新・品種として登録されることで、農家は従来より高い値段で買わなければならなくなる懸念があります。(実際、前回紹介した民間の品種「ミツヒカリ」の種籾の価格は、農業試験場の種籾の何倍もするそうです。)

また、さらに懸念されているのは、自然交配により、農家、ある日突然訴えられる可能性が高まることです。

隣りの田んぼで、民間の新品種の稲を栽培していたとすると、風に乗って “自然交配” が起こってしまいます。

実際に、海外では、そのように自然交配した作物の抜き取り検査を行い、育成者権者が権利を持っている品種の遺伝子の痕跡が見つかったことで、多額の損害賠償請求を要求されるケースが少なくないのです。

種子法廃止、農業競争力強化支援法、種苗法改正の3つは、日本の食料主権を脅かす危険な3点セットになるのではないか、と懸念する声が多いのも当然かと思われます。

(by インディーロム 渡邉修也)

ページトップへ