H2Hマーケティング実践編
「食料安全保障とは・その9:
種子法廃止と農業競争力強化支援法の影響」
長年日本の主要農産物である米、麦、大豆の種子を守ってきた「種子法」が廃止になり、「農業競争力強化支援法」が出来たことの影響について、さらに踏み込んで見ていきたいと思います。
「農業競争力強化支援法」では、「生産性の低いものについては、銘柄の集約の取組を推進する」「民間にもよい品種がある」ということで、仮に民間に食味も収量もよい優れた品種があるならば、そうした品種に絞り混んで生産を行うことで、より効率のよい生産を行うことができ、農業の競争力強化につながるという建て前です。
しかし、そうした良い面ばかりではないことも分かってきています。
民間品種で、食味がよく収量も多いという触れ込みで、作付け面積1位になっていた三井化学クロップ&ライフソリューションの「みつひかり」で、2023年に問題が露呈しました。「みつひかり」のデータに不正が見つかったのです。
同社が発表した報告書によると下記のことが分かったそうです。
- 2016~22年、茨城産と表示した種子に愛知産を混入
- 2017~22年、異品種の種子を混入
- 2019~22年、発芽率を偽って「90%」と表示
さらに、問題が深刻化したのは、翌2024年2月、つまり春の種まき直前になって、供給されるはずだった「みつひかり」の種子の供給がされない、ということが判明したことです。
生産農家は大混乱となりました。「みつひかり」用の生産計画を立て、「みつひかり」用の肥料や農薬を注文していたにもかかわらず、肝心の「みつひかり」の種子が供給されないのですから当然です。大損害となりました。
「みつひかり」は現在出荷停止になっていますが、ブランドの存続を諦め、稲の種子事業からも撤退する可能性も噂されています。
「種子法」は、こうした自体を避けるために、公的な農業試験場や研究機関で長い時間をかけ開発し、改良を重ねきてきた実績のある品種の種子を守り、低廉な価格で農家に安定供給してきました。営利企業の観点からすると、コストに合わないことを地道にやってくれていたわけです。今回の事件は、そうした儲からない事業を、民間(=営利企業)に任せることの懸念が現実に起こってしまったということになります。
恐らく、民間でやるには、日本だけでなく、もっと広く世界で作付けされるようなメジャーな品種でないとコストに合わないのではないでしょうか。
ここから先は、あくまで個人的な想像になりますが、国内企業が米の種子事業から撤退もしくは事業縮小した場合、その空いたポジションを狙って、バイエル(モンサント)などの海外ブランド品種の営業攻勢が強まっていくのではないでしょうか。
現在、既に野菜の種子の9割が輸入された種子に置き換わっていますが、日本の主食である米の種子まで、海外依存率が高まっていく懸念があるわけです。まさに「食料主権」に関わる大問題かと思います。続きは次回に。
(by インディーロム 渡邉修也)