H2Hマーケティング実践編
「食料安全保障とは・その7:
種子法の廃止」
前回は、食料主権を考える上で知っておきたい「緑の革命」の概要をご紹介しました。
光と影の両面があり、光の部分は、短期間の間に食糧増産に成功し、途上国の人口増加を支え、食料危機を回避できたことでした。
影の部分は、化学肥料と農薬の多用による土壌環境の劣化と疲弊、大量の水の使用に伴う地下水位の低下、単一品種の作付けによる生物多様性への影響、作付品種を好む病害虫などが発生すると被害が甚大化するリスク、投資力のある大規模生産者と小規模生産者との格差拡大、そして「食料主権」の問題です。
緑の革命は、そもそも1940年代の米国で「食糧を制するものは世界を制する」という世界戦略の考えのもとにスタートし、途上国に展開されたものです。
途上国への展開の際には、国単位での資金援助も行われましたが、直接ではありませんが、間接的に農業生産者への出資や融資なども行われました。
増産が進み、機械化や規模拡大のための投資と返済が好循環している時はよいのですが、農業の場合、天候不順や病害虫の発生などで不作になることもあります。返済不能になり、大資本の傘下に入っていく事例も多くみられました。
それが広がると、食料主権の問題につながっていきます。植民地ではないのですが、経済的に支配される構造が出来上がってしまうわけです。
日本は、どうでしょうか?
日本の場合、戦後、主要農作物の品種改良は都道府県の農業試験場など公的試験研究機関が担ってきたため、緑の革命のようなビジネスモデルによる外資の日本進出は抑制されてきた経緯があります。
しかしながら、ここ数年の間に、日本の品種は日本で開発し守っていくという体制が崩壊しつつあります。
第一には「種子法の廃止」です。種子法(正式名称「主要農作物種子法」)は日本の主要農産物である米、麦、大豆の品種改良と優良な種子の保全、種籾の安定供給を目的に1952年に制定されたものです。
それを、2017年2月、第二次安倍内閣は「食糧不足の時代は終わり、種子法は役割を終えた」「種子法が民間の参入を阻害している」という理由で廃止することを閣議決定、満足な国会での議論もないままに、4月には種子法廃止の法案が国会で可決成立、翌2018年4月1日に廃止されてしまいました。
第二は「農業競争力強化支援法」です。良質・低廉な農業資材の供給、農産物流通の合理化、競争力強化を目的とする法律ですが、問題はこれまで各地の農業試験場などで開発保全してきた各種品種の「育種知見」を民間企業への提供すべきということや、農業試験場で保全・提供する品種の数が多すぎて効率が悪いという理由で、民間の数種類に集約させていくべき、といった内容です。
長年、農業試験場が守ってきた「育種知見」が、ただ同然で民間(外資も含め)に明け渡されることになりました。こちらも満足な国会の疑問もなく、2017年に可決成立しています。
第三は、2020年の「種苗法改正」です。品種登録を受けた品種について、開発した育成者の権利を保護するものですが、問題なのは、自家採種が原則禁止となったことです。
農家は種子企業から種を買わなければならなくなりましたが、種の価格決定権は企業側にあります。野菜の種は9割が輸入に頼っているため、円安で種の価格は高騰しつづけており、農家を苦しめているのです。
続きは、また次回に。
(by インディーロム 渡邉修也)