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マーケティング再入門 
「H2Hマーケティングとは・その44:
チェンジエージェントになる」

「H2Hマーケティングの理念にコミットする企業は、積極的なチェンジエージェント(変革推進者)となることで社会問題の解決に貢献できる」

コロナ禍の中、「コトラーのH2Hマーケティング」が緊急出版されたのが2021年9月、この連載を開始したのは2022年1月でした。そこから約2年かけて渡邉の個人的な感想も交えながらこの本を読解してきましたが、ようやく最終章に到達したようです。

緊急出版ということと、H2Hマーケティングというコンセプト自体がコトラーによる未来への提言ということもあってか、最終章は、2021年時点における、世界の政治・経済、技術動向をコトラーなりに俯瞰しつつ、H2Hマーケティングの理念がこれからの世界に貢献していけるはずだ、という願いのような形で締めくくられているように思えます。

最終章では多くの識者の現状認識や論点を紹介していますが、コトラーが本の最後の締め括りとして大きく紹介しているのが、ドイツの社会学者ハルトムート・ローザの「レゾナンス:世界との関係の社会学」(2023年10月時点では未邦訳)です。

ハルトムート・ローザは、代表作の1つ「加速する社会 ─近代における時間構造の変容」において、「私たちは時間がない。あふれんばかりに勝ち取っているのだが」という問題提起を行い、社会的加速を「技術的加速」「社会変動の加速」「生活テンポの加速」という切り口で考察しているようです。

今回の「レゾナンス」では、そこから一歩議論を進めて「遅いこと(スローであること)」、「共鳴(レゾナンス)」の大切さを説き、主体と世界との関係性における共鳴を論じているようです。

ただし、ローザはスローであることは成功者が味わえる甘美なものとして「オアシス」と表現しており、単なるスローライフ賛美ではないようです。

コトラーが紹介している例としては、「多くの人が承認欲求が満たされた時に仕事を楽しいと感じるが、では失業したらどうなるのか?」「主体と仕事の関係がひずむだけでなく、主体と世界の関係性も悪化し、世界は否定され、人生は不公平だと思うようになるのではないか」という問いがあり、これに対応するには、単なるマインドフルネスや減速主義に留まらず、「共鳴」が必要だと言っています。

コトラーは「幸福な人生には、環境を鑑みた上で共鳴関係に入ることを厭わず、よって自律性の一部を放棄することが必要となる」「共鳴関係を定着させるには、社会を変える必要がある」としています。

なかなか理解するのが難しいのですが、コトラーによると(ローザによると)共鳴は、個だけで成立せず、必ず他者・外部との関係性の中で生じるものであるという認識がまず必要で、そのために “自律性の一部を放棄”することが必要だということです。

そして、自分が他者と関わる中で共鳴を起こし、それを定着させるということは、すなわち「社会を変える」ということにつながっていくはずだ、ということでしょうか?

コトラーは、H2Hマーケティングの最終章の冒頭で、「積極的なチェンジエージェント(変革推進者)となることで社会問題の解決に貢献する」ことを訴え、そして最後の最後で「レゾナンス(共鳴)を起こすことは、社会を変えることだ」と強調しています。

H2Hマーケティングは、現在92歳であるコトラーが、未来の(というよりは本来の)マーケティングはこうあるべきというコンセプトを打ち出した提言の書であり、コトラーのマーケティングの集大成といえるものだと私は思っています。皆さんはどう感じられましたか?

(by インディーロム 渡邉修也)

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