マーケティング再入門
「H2Hマーケティングとは・その38:
価格の決定方法」
今回は、S-DL及びH2Hマーケティングの考え方に基づく「価格の決定方法」についてです。
ハ−マン・サイモンによれば「顧客が喜んで支払う対価こそ企業が提示しうる価格であり、顧客の目に映る商品やサービスの知覚価値を常に反映している」ということ。価格とは、顧客による価値の評価ということになります。
顧客にとっての価値の尺度とは、個々人が個別に感じる使用価値であり、価格は企業のバリュープロポジションの一部に過ぎません。また、実際に使用した後のアフターサービス、購入後のコミュニケーションをも含む長期的な体験になる場合もあります。
価格の決定方法として、従来は、製品原価にマージンを上乗せするマークアップ方式がよく採用されてきましたが、コトラーは、従来のマークアップ方式は資源志向、企業志向であり、S-DLの考え方に基づく価格設定はあくまでも顧客側の視点に立ったバリュー・ベースド・プライシングであるべきだとしています。
コトラーは、H2Hマーケティングの中で、まだ修正の余地があるとしつつ以下のような4段階の価格決定プロセスを紹介しています。
- 1段階:価格を設定する対象物を定義する
- 2段階:価格を決定する主な要素を分析する
- 3段階:収益を見込める価格帯を選択する
- 4段階:価格を決定する
このうち2段階の「主な要素の分析」については、顧客、企業、競合という3つの戦略要素について分析していきますが、コトラーは3つの中で最も重視すべきものとして「顧客視点からの分析」をあげ、これについて、さらに以下の6段階の分析を行うべきだとしています。
<顧客視点からの分析>
- 1段階:マーケットのセグメンテーションを行う
- 2段階:競合商品の価格を見極め、それを消費者からみた次善の候補とする
- 3段階:競合商品や競合プロセスと、自社の商品との差別化要因を全て特定する
- 4段階:差別化要因が顧客に提供する価値を判定する(価値の評価手法にはコンジョイント分析や、フォーカスグループ、ベンチマーキング、顧客ワークショップ等がある)
- 5段階:参考価値と差別化要因の価値を合算し、合計経済価値を算出する(ある商品やサービスに対する顧客グループやセグメントごとに価値は違うため、それら全てを含めた価値のプールを形成する)
- 6段階:価値のプールを活用し、特定価格における将来の売り上げを推定する
(「コトラーのH2Hマーケティング 『人間中心マーケティング』の理論と実践」より)
さらにコトラーは「重要なのは、このプロセスは顧客だけでなく、価値創出ネットワークにいるサービスを交換する全てのパートナーに対して行われる」べきだとしています。
このような分析を踏まえた「目標原価計算」を行い、最終的には「目標販売価格」を算出し、さらにそこから企業が定める目標利益を引いたものが「目標原価」となる、ということです。
つまり、原価にマージンを上乗せするマークアップ方式とは、まったく逆の発想と分析、検討が必要だということです。
(by インディーロム 渡邉修也)