マーケティング再入門
「H2Hマーケティングとは・その20:
SPICEステークホルダーモデルとは」
前回は、リソース(RBV)とマーケット(MBV)に、バリュー(VBV)を加え、これら3つの観点を統合したものが、カスタマー・ベースド・ビュー(CBV:顧客ベース理論)という統合モデルとなる、というところまでご紹介しました。
なぜ、リソースとマーケットという一見対極にあるように見える2つの観点に、バリューを加えることで、統合されるのでしょうか?
これについて、CBVを提唱するマッツラー等は「VBVとは、株式投資家と顧客の利益を優先するものであり、企業価値と顧客価値の最大化が企業経営の重大は目標となる」、「企業価値は顧客満足度の関数であり、顧客価値を創造する能力は、企業の資源とその利用効率で決まるという仮定に基づいている」としています。
顧客満足度を高めるコアコンピタンス(競合に対する確固とした強み)を維持し続けるには、将来的な顧客価値の共創を可能にする技術開発や人材育成など、次のコアコンピンタスを高めるための「投資」が必要となります。
つまり、コアコンピタンスを維持するには、企業価値を含めた企業の発展に株主が前向きであることが必要であり、RBVとMBVに、VBVを加わることで、CBVとして統合され、下記のような好循環が成立するというわけです。
[コアコンピタンス]→[顧客価値]→[顧客満足]→[企業価値]→(投資)→[(将来の)コアコンピタンス]→[(将来の)顧客価値]・・・
「CBVでは、資源や特定スキルが、顧客に認識可能な独自の価値あるオファリングに繋がる場合、それは経済レントの源泉となる。競合よりも高い価値を顧客に提供するため、企業は全社的な学習を経て能力やスキルを開発しなければならない」とマッツラー等は指摘しています。
コトラーは、CBV理論ついて「市場重視のMBVや、企業側のリソース重視のRBVと比べ、革新的な統合である」として評価しつつも、これらの循環の中に関わってくる多様な利害関係者の「関係管理」については、別途、明確な指針が必要になってくるとして、シソディアの「Firms of Endearment(愛される企業)」の「SPICEステークホルダーモデル」を紹介しています。
SPICEとは、社会(Society)、パートナー(Partner)、投資家(Investor)、顧客(Customer)、従業員(Employee)といった利害関係者です。
SPICEモデルの特徴は「企業と個々の利害関係者との間の単線的な関係ではなく、すべての利害関係者が相互依存の関係にあり、利害関係者同士も繋がっている」というところです。
持続可能な「愛される企業(FoE)」とは、すべてのステークホルダー(利害関係者)と win-win の関係が成立し、それらを維持・発展できる企業である、ということです。
コトラーのH2Hマーケティングの中では、SPICEモデルを導入事例としてホールフーズ・マーケットの「相互依存宣言」を紹介しています。これは、すべての利害関係者が相互依存の関係にあり、互いに協働することで、持続可能な関係を築くことができるという同社の理念と行動指針を宣言したものです。
(by インディーロム 渡邉修也)