マーケティング再入門
「H2Hマーケティングとは・その17:
共創の後は顧客に主導を委ねる」
コトラーは「消費者も、相互接続性や透明性の高まりにより、情報と権限を得た対等なパートナーとしてのメリットを享受している。顧客は、生産プロセスに積極的に関与し、プロシューマー、すなわち生産者でもある消費者として、様々な形で企業と価値を共創する」としています。
上流での事業参加の場合は、イノベーション過程でのアイデア提供、コンセプトやプロトタイプについて生産者とともに検証、市場投入のタイミングでのリードユーザーとしての支援など、様々な関わり方があります。
上流での共創関係は、一般的にも理解しやすく、また実際にこうした開発手法を採り入れている企業の増えてきているのではないでしょうか。
一方、下流参加の場合は少し様相が異なってきます。
コトラーは「下流の場合、役割が逆転する。消費者が創造者となり、企業はそれをサポートする共同創造者となる」といいます。
S-DLの回を読んでいただいた方なら察しがつくと思いますが、企業も顧客も共にアクターという立場になり、すべての価値は、企業が一方的に提供するものではなく、顧客が商品を使用した時に価値が決まります。
また、顧客は自主的に商品の情報を第三者へ伝達し推奨します。企業はメリットの受け手として、それに参加する、という考え方です。
接続された顧客はブランドについてのコメントや評価を提供するなど、オープンな対話に参加しますが、企業にとって都合のよいことばかりではありません。ブランドについて率直な意見を述べ、時に批判する意見も出てきます。
つまり、企業側では、自社に関するパブリックイメージを、自ら制御できなくなる可能性があるということです。これは大変なリスクに感じられますが、G-DLからS-DLへの変化を理解し、前向きに取り組もうとする企業であれば、オープンな対話に取り組んでいこうとするでしょう。
コトラーは「顧客に主導を委ねるのは企業とって恐ろしいことかもしれないが、マーケティングはそれをポジティブな形で活用し、顧客エンゲージメントの強化に繋げる方法を探る必要がある」とし、「デジタルトランスフォーメーションに関するマーケティングの一番のポイントは、短期目標にという罠に陥らず、コミュニケーション機能に限定してはならない」としています。
また、デジタライゼーションをH2Hマーケティングの3つ影響因子にあげた理由について、「マーケターは、常に繋がっている新たな顧客や企業のダイナミクスと、『接続性はマーケティングの重要基盤である市場そのものを変える』ことを理解する必要がある」、「デジタライゼーションがどれだけ進もうとも、マーケティング活動は常に人間中心であるべき」で、「何のために誰のためにどんな理由があって活動しているのかを見失ってはならない」、「それができて初めてデジタライゼーションを人間に有益な形で活用できる」としています。
コトラーの「H2Hマーケティングの推進は、人間を目的に至る手段とみなすのではなく、人間を中心に据えるべき」とする根本の考え方が現れています。
H2Hマーケティングの3つの影響因子はこれくらいにして、次回からはH2Hのマインドセットについて見ていきたいと思います。
(by インディーロム 渡邉修也)