マーケティング再入門
「H2Hマーケティングとは・その12:
S-DLの11の基本的前提(後半 FP7〜FP11)」
今回は、S-DLの11の基本的前提(fundamental premises / FP)の後半です。
FP7:アクターは価値を提供できないが、価値提案の創造と提供に参加できる
2004年版では「企業は価値提案をすることしかできない」であったものが、2008年版では「企業は価値を提供することはできないが、価値提案を提供することはできる」となり、さらに2016版では、“アクター”という概念が導入されたことで上記の定義文とへ改訂されています。
価値(バリュー)を提供(生産)することできないが、価値提案(バリュー・プロポジション)しかも協働アクターとしてなら参加OKだ、と言っているわけです。S-DLでは「企業は価値の生産者」ではなく、「共創プロセスにおける協働アクター」という位置づけになります。
FP8:サービス中心の考え方は、本質的に受益者志向であり、関係性を重視する
これも、2008年版までは「顧客志向」だったのが、S-DLの対象は顧客のみに
限定されるものではないという考えから、「受益者志向」に表現が変わっています。
S-DLの考え方では、サービスは一方的に提供されるものではなく、提供者と受益者とは不可分な関係であり、サービスとは両者の間で共創されるものであるが故に「サービス中心」という表現になっているのだと思われます。
FP9:すべての社会的・経済的アクターは資源の統合者である
これも分かりにくい表現かもしれません。従来のG-DLでは、生産者と消費者、企業と顧客という二元論的で一方向の関係として捉えられていたものが、S-DLでは、両者は価値の共創アクターとなっています。
共創アクターが「統合」する資源とは、企業が獲得することが困難な無形のオペラント資源であり、関係するアクターたちの協働によりサービスへと変換されていく、というイメージで捉えていただくとよいかもしれません。
コトラーによると、H2H、つまりヒューマン・トゥ・ヒューマンは、元々はバーゴとラッシュが、アクターという概念を創出し、アクター間の共創関係について「アクター・トゥ・アクター」「A2A志向」と呼んだことに由来するそうです。想像ですが、コトラーはこのA2A より大きな枠組みで、かつ血の通った温かみを持たせるために「H2Hマーケティング」としたのではないでしょうか?
FP10:価値は受益者によって常に、固有に現象学的に決定される
「固有に現象学的に」というのは、ようするに「価値を決める(価値を価値として認識し感じ取ることができる)のは、交換の受益者のみである」ということです。アクターの1人である企業が価値提案(バリュー・プロポジション)をしたとしても、もう一方のアクターである顧客との間で共創される価値は、個々の顧客ごとに、それぞれの関係性によって共創されるもので、個々異なるものであり、固有で現象学的に決定されるものだという訳です。
FP11:価値共創は、アクターが生み出した制度と、制度の取り決めを通じて調整される
S-DLは、協働アクターたちとその関係性とネットワークによって形成される相互的な「サービスエコシステム」として捉えられます。バーゴとラッシュは、「サービスエコシステムには、アクター間の活動を調整し、効果的に機能させるための共通の制度(institution)が必要である」としています。
S-DLの11の基本的前提は以上です。次回は、サービスエコシステムについてもう少し詳しく見ていきたいと思います。
(by インディーロム 渡邉修也)