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マーケティング再入門 
「H2Hマーケティングとは・その11:
S-DLの11の基本的前提(前半 FP1〜FP6)」

S-DLの提唱者であるバーゴとラッシュは、S-DLの定義について、11の基本的前提(fundamental premises / FP)にまとめています。数が多いので今回と次回に分けて、その内容を見ていきたいと思います。(※このFPは、2004年に最初のものが作成され、その後2回の大きな改訂を経て、最新版は2016年版となります。)

FP1:サービスは交換の基本的基盤である

バーゴとラッシュは「経済的な交換の基礎はサービスである」と断言しています。“交換の基本的基盤”という表現は、モノの交換では「unit(単位)」を用いていたの対して、S-DLでは、もはや価値の提供者から享受者という一方的な関係ではなく、2人以上のアクターによるサービス交換によって価値が創造されること、サービスの源泉となるオペラント資源や、サービス交換が行われる場や関係性などが「basis(基盤)」となる、という考えに基づくものです。

FP2:間接的交換は、交換の基本的基盤を隠してしまう

工業化による分業が進んだ結果、関係アクターたちによる直接的なサービスとサービスの交換が不可能になり、いつの間にか、サービスの交換対象が貨幣に置き換わってしまい、そのために各アクターたちは自分が誰のためにサービスを提供しているのか分からなくなった、とバーゴとラッシュは指摘しています。(マルクスの「労働の疎外」と似た概念ですね。)貨幣を媒体とした間接的交換を目的化するのでなく、各アクター間のスキルとスキルの交換、サービスとサービスの交換が、互いにイメージできるような関係の構築と価値創造であるべきだ、ということかと思います。

FP3:モノは、サービス提供のための伝達手段である

G-DLの発想では、商品(モノ)とは、企業が生産し販売する価値であり、消費者はその価値を消費する(価値を破壊する)存在でした。S-DLでは、モノは、サービス事業者のオペラント資源(ソフト的な資源)の流通・伝達手段であり、商品とは「知識やノウハウをパッケージ化」したものと捉えられます。

FP4:オペラント資源は、戦略的優位性の基本的源泉である

「戦略的優位性」は、2008年版では「競争優位」となっていましたが、2016年版では「戦略的優位性」に変更されています。これは、単なる競争志向から顧客に対して優れたバリュープロポジションを提供することが第一義であるべきで、他社との競争は二の次だという考えに基づく変更です。
これについてコトラーは「戦略優位性はS-DLのサービスとサービスの交換の概念がもたらす重要な意味に焦点を当てる。すなわち、サービスの相互交換という文脈では、サービス事業者も“受益者”なのだ」と解説を加えています。

FP5:すべての経済はサービス経済である

このFPに関するよくある誤解として「国民経済がサービス経済になりつつある」というものがありますが、バーゴとラッシュは明確に否定しています。それは、従来型のG-DL的な見方で世界を捉えているからであり、“なりつつある”のではなく、「あらゆる交換の根底にはサービスある」というのがS-DL的な見方です。バーゴとラッシュは「あらゆるビジネスはサービスビジネスである」と主張しています。

FP6:価値は、常に受益者を含む複数のアクターによって共創される

2008年版では「顧客は常に価値の共創者である」となっていましたが、2016年版では上記のように改訂されました。「企業は可能な限り顧客と協働し価値共創に取り組むべきだ」という規範・理想論から、「価値は常に共創される」という選択の余地のない強い表現になっています。これは「顧客は、オペランド資源(ターゲット)ではなく、オペラント資源(共同生産者)となり、オペランド資源に働きかけながらバリューチェーンやサービスチェーンに関与する」アクターである、という考えに基づくものです。

FP7以降は、次回に。

(by インディーロム 渡邉修也)

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