マーケティング再入門
「H2Hマーケティングとは・その10:
S-DLとG-DLの違い」
サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)は、モノを中心に据えた発想、プロセスであるグッズ・ドミナント・ロジック(G-DL)を乗り越える新しいマーケティングのロジックです。
今回は、2つのロジックの違いについて、もう少し詳しくみていきたいと思います。
S-DLの提唱者であるバーゴとラッシュは、従来型ロジックのG-DLと、新しいロジックであるS-DLの違いについて、オペランド資源(operand)とオペラント資源(operant)を比較しながら説明しています。
オペランド資源とは、有形・静的・有限な物質的・ハード的資源であり、企業は、オペランド資源を加工し流通させることで価値を創造しようとします。
- A資源(鉄鉱石)→A’ 製品(鉄鋼製品)
- A部品+B部品 → AB加工製品(自動車、パソコンなど)
対して、オペラント資源は、無形・動的・無限のソフト的な資源であり、サービスそのものであったり、ナレッジやスキルなど企業が獲得し保存することが困難な資源です。
ソフトウェアを例にとると、90年代までのモノ的な発想で開発・製造され、パッケージ製品として販売されていたソフトウェアはオペランド資源ですが、インターネット上でソフトウェアの機能を提供するサービスである現在のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)は、オペラント資源、S-DLの発想から生まれたものという違いがあります。
- パッケージ型ソフト(オペランド資源的発想、G-DLの製品)
- SaaS型機能提供サービス(オペラント資源的発想、S-DLのサービス)
コトラーは「G-DLは主にオペランド資源に焦点を当て、交換の基本単位はモノで、マーケターはオペランド資源である顧客に働きかけ、セグメンテーションを行い、リーチしようとしていた」としています。
従来のマーケティングでは、顧客をもオペランド資源として取り扱っていたわけで、例えば、顧客になるかもしれない生活者を「ターゲット」と呼び、「LTV(ライフ・タイム・バリュー、顧客生涯価値)」などと称して一人の顧客が生涯にそのブランドにどれだけお金を費やしてくれそうかを数値化してみたりと、分析対象と見なしていたわけです。
「S-DLでは、交換の目的は相手の知識やスキルからメリットを得ることであり、顧客は『サービスの共創者』として参加するオペラント資源となる」とされています。
「これにより、モノに対する見方も変化する。従来、モノ(オペランド資源)は最終商品として見られるだけだったが、S-DLでは、モノはオペラント資源の運び手であり、モノに組み込まれたスキルや知識を運ぶ仲介役となる。モノはそこに埋め込まれた『知識』と『顧客』という2つのオペラント資源を繋ぐことになるのだ。」
モノは単なるモノではなく、サービスを提供する “媒体” になった、ということです。次回も、引き続きS-DLの考え方について見ていきたいと思います。
(by インディーロム 渡邉修也)