マーケティング再入門
「H2Hマーケティングとは・その9:
サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)とは」
コトラーが提唱する「H2Hマーケティングモデル」とは、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック、デジタライゼーションという3つの影響因子を、新しいマーケティングの考え方へのアプローチとして統合した理論フレームワークです。
前回まではデザイン思考について見てきましたが、今回からは、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)について見ていきたいと思います。
ドミナント・ロジック(Dominant Logic)とは、“ 支配的な論理 ”ということになります。
「サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)」という概念は、2004年に、スティーブン・L・バーゴ、ロバート・F・ラッシュの二人が発表した論文「マーケティングのための新しい支配的論理の進展」( Evolving to a new dominant logic for marketing )で提唱されたものです。
バーゴとラッシュは、この論文の中で、従来のマーケティング、つまり、モノをいかに生産し、どのように売るかというモノを中心とした発想やプロセスである「グッズ・ドミナント・ロジック(G-DL)」を乗り越える新しいマーケティングの支配的論理として「サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)」を提示しました。
それは「モノ中心からサービス中心の交換モデルへ」「関係性の重視」「価値の共創」「ネットワーク型の考え方」を重視する発想・考え方へのパラダイムシフトをせまるもので、バーゴとラッシュは「モノはサービスの別形態にすぎず、両者を区別することは時代遅れ」と主張しました。
「顧客はモノやサービスを買っているのではなく、価値を創造するサービス・オファリングを買っている」、「モノもサービスを提供する媒体である」
従来のモノ(グッズ)を生産・販売する視点では、サービスはグッズよりも劣位な位置づけ、つまりモノをより多く売るため、あるいは顧客をつなぎ留めておくための付帯的存在として捉えられてきました。
S-DLにおいては、価値創造の焦点が、モノやサービスの価値交換から、顧客がモノやサービスといった一連のプロセスを通じて経験し感じ取る「文脈価値」(value - in - context)へと大きく変わります。
そうしたプロセスの中では、企業と顧客は、生産者と消費者という一対多、かつ一方向の関係から、個々の顧客との一対一、かつ対話型、さらには共創関係へと変化します。
S-DLやH2Hマーケティングでは、もはや「消費者」という用語は使われません。企業と顧客との関係については、バーゴとラッシュによるS-DL定義の更新過程を見ていくと分かりやすいかもしれません。
- 2004年版:顧客は常に共同生産者である
- 2008年版:顧客は常に価値の共同生産者である
- 2016年版:価値は、常に受益者を含む複数のアクターによって共創される
顧客は、消費者でも、ユーザーでもなく、共創関係の中の複数の「アクター」の一人になっているのです。次回も、S-DLの基本的な考え方を見ていきます。
(by インディーロム 渡邉修也)