マーケティング再入門
「H2Hマーケティングとは・その3:
デザイン思考の定義」
前回は、H2Hマーケティングモデルが、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションの3つを統合することで、コトラー等によってまとめられた新しいマーケティング・モデルであることをお伝えしました。今回は3つの影響因子のうち、デザイン思考について見ていきます。
デザイン思考(Design Thinking)という用語自体は以前からあったようですが、ここで言う「デザイン思考」とは、米国のデザイン・コンサルティング会社IDEOの共同創業者であるデビッド・ケリーとティム・ブラウン等によって提唱され広められたクリエイティブ・ワークやイノベーション創出のための一連の考え方や手法となります。デビッド・ケリーについては、スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所などの研究機関の教授としてデザイン思考の教育指導も行っています。
デザイン思考の定義について、IDEOのティム・ブラウンは、次のように述べています。
「人々が生活の中で何を欲し、何を必要とするか」「製造、包装、マーケティング、販売、アフターサービスの方法について、人々が何を好み、何を嫌うのか」この二項目について直接観察し、徹底的に理解し、それによってイノベーションに活力を与えることである。
一見、どれも当たり前のように見えますが、「人々」が「生活の中」で「何を欲し必要とし」「何を好み、何を嫌う」のか、「直接観察」し「徹底理解」すること、特に直接観察と徹底理解が必須かつポイントだと考えられます。
なぜ直接観察と徹底理解が必須なのでしょうか?
従来のマーケティングは、顧客ニーズを収集・把握するために、アンケート調査、ヒアリング・インタビュー、SNSでのユーザーとのコミュニケーション、ビッグデータ分析などを行ってきましたが、問題なのは、いずれも実際にユーザーが製品やサービスを使っている現場に立ち会っているわけではない間接的な調査であることです。
調査項目や分析の切り口についても、調査・分析する側で恣意的に決めているものであるため、調査・分析側の色眼鏡のフィルターがかかっています。
また、ここは重要なのですが、アンケートやインタビューに回答する調査対象者側も、自身の本音とは異なる内容を(意図して嘘をつくわけではなく)無自覚に回答することがあります。
対象者の行動や態度を丹念に観察することで、対象者自身も自覚していない生活習慣、思い込み、思考パターンなどが浮き彫りにされることがあります。
直接観察と徹底理解は、対象者の本音や無自覚に行われている行動や態度の理由や要因に迫るための重要な手法であり、近年、デザイン思考が注目されている理由は、そうした手法によって、対象者自身も気づいていない隠れたニーズまで掘り起こすことができ、それがイノベーション創出に繋がったという事例が増えているからです。
次回は、デザイン思考の手法について、もう少し具体的に見ていきたいと思います。
(by インディーロム 渡邉修也)