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マーケティング再入門 
「宇沢弘文『社会的共通資本』を読む・その22:
産業と営利の乖離」

ヴェブレンはさらに「産業と営利の乖離が、金融市場、資本市場の発達にともなって、ますます深刻なものとなり、市場経済制度全体の不安定化という現象を惹き起こすことになる」と論を進めます。

産業と営利の乖離とは、どのようなことでしょうか?

実際にモノを生産する企業ではマシーン・プロセスによってますます固定化が高まっていきます。一方、金融市場、資本市場では、企業の発行する負債、株式に対して高い流動性を与えていきます。

宇沢によると「金融資本市場の発達というときには、このような負債、株式のもつ流動性をいっそう高め、効率的な取引を可能にするということを意味する」そうです。

流動性の高まりによって、配当収入を目的とした長期的な株保有から、株式を短期間保有したのちに売却することによって得られるキャピタル・ゲインを求めることが支配的になっていきます。

そうなると「金融資産市場において成立する市場価格は必ずしも、実質的価値を反映するものでなくなり、人々が市場価格の変動に対して持っている期待にもとづいておこなわれる投機的動機によって大きく左右される」ことになります。そして「投機が投機を生み出す」という状況になっていきます。

ヴェブレンが「営利企業の理論」の中で展開したこうした議論は、この本が出版された6年後の1910年のUSスチール誕生によって、明確な形となって現れてきます。

USスチールは、初めての10億ドル規模の巨大企業ですが、その特徴は、複数の鉄鋼会社による自発的合併でなく、金融資本のJ.P.モルガンの主導で合併が行われたということです。

実際上の鉄鋼需要の裏付けや生産効率を目指すものではなく、鉄鋼産業における競争条件をおさえ(つまり寡占状態を作り)、証券市場の操作を通じて莫大な利益を得ようとするものであり、ヴェブレンの「営利企業の理論」をそのまま地で行くような合併であったわけです。

このような産業と営利の乖離が顕著になり、投機が投機を生み出す状況が常態化していくと、どうなるのか?

歴史を知る現在の私たちには自明のことですが、「生産面からみた企業の実質的価値と、投機的動機にもとづいて形成される株式市場における市場価格との乖離が拡大していき、ある閾値を超えた時、人々の投機的期待は限界に達し、やがて大きく逆転するという現象が起こり、株価の大暴落という結末を惹き起す」とヴェブレンは指摘しました。

そして「株式市場における恐慌→経済全体に波及→株価暴落→投資コスト増加→投資水準の低下→有効需要の低下→非自発的失業の増大」という結果として現れ、それがさらに、国民所得の大幅な低下、企業経営者の悲観・・・といった悪循環に陥り、慢性的な経済停滞という現象が「現代資本主義という制度的な条件からの必然的な帰結である」とヴェブレンは論じました。

(by インディーロム 渡邉修也)

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