マーケティング再入門
「宇沢弘文『社会的共通資本』を読む・その18:
恐慌を予見したヴェブレン『営利企業の理論』」
ケインズの「雇用、利子および貨幣の一般理論」は、現代資本主義制度に内在する不安定要因、失業とインフレーションの可能性、景気の長期停滞と所得分配の不平等の要因を指摘・分析したものです。
ケインズは、景気変動による雇用への影響を公共投資で最小限に抑制することを提言し、米国ルーズベルト政権下でのニュー・ディール政策の理論的根拠となっていくわけです。
ケインズの「一般理論」は、1929年の世界恐慌発生後の1930〜35年に構想され1936年に刊行されたものですが、ヴェブレンは、そこから20年以上遡る1904年刊行の「営利企業の理論」の中で、資本主義制度の問題点を鋭く指摘し、必然的に恐慌が発生してしまうこといち早く予見していました。(ヴェブレンは恐慌発生の2ヶ月前、1929年8月に逝去しています。)
「営利企業の理論」の内容はどのようなものだったのでしょうか。宇沢の解説から引用していきます。
「近代文明を支える物質的枠組みは産業体制であり、この枠組みに生命を与えているのが営利企業である。この近代的な経済組織は、『資本主義制度』あるいは『近代工業社会』と呼ばれる。その特徴的な性格はマシーン・プロセスを中心とし、投資が利潤を求めて行われることである。このことによって資本主義制度が近代文明を支配することになる。」
「この産業社会において決定的な役割を果たすのが、実業家(ビジネスマン)である。ビジネスマンは、投資の機能と市場を通じて、工場と生産工程を支配し、産業社会全体の動きを決定する。」
ここで注意しなければならないのは、ヴェブレン独特の用語づかいです。
ヴェブレンは、「産業と営利企業との間にはきびしい対立関係が存在」すると言っています。
工業化が進み高度に組織化された社会的分業が進んだことで、高度かつ大量の生産が可能になったわけですが、そのことは、生産過程の「固定化」を意味します。
宇沢は「機械を中心とする生産過程、労働の社会的分業もますます固定性を高めてゆく。生産を直接担当する労働者、技術者たちのもっている製作者本能と、経営者のもっている利潤追求動機の間に存在する緊張感もまたつよくなって、ヴェブレンのいう、産業と営利の乖離は決定的なものとなってゆく」と解説しています。
ヴェブレンは、金融資本による産業の支配が進み、実需に呼応する生産への投資よりも投機目的の投資が行われるようになると、投機的動機にもとづき形成される資産価格が市場をきわめて不安定化させること、これがある閾値を超えたとき、株価の大暴落を引き起こし、金融パニックを引き起こすことを、20世紀初頭の時点で指摘していました。
さらに、ヴェブレンは、恐慌を予見しただけでなく、ではどうすればよいのかという経済の方向性まで視野に入れた議論を進めていました。続きはまた次回に。
(by インディーロム 渡邉修也)