マーケティング再入門
「宇沢弘文『社会的共通資本』を読む・その13:
保険点数制度の問題点」
宇沢は「医療を経済に合わせるのではなく、経済を医療に合わせるのが、社会的共通資本としての医療を考えるときの基本的視点」であるとし、「(GDPに占める)国民医療費の割合が高ければ高いほど望ましい」としています。
宇沢は、また日本の保険点数に基づく診療報酬制度にも大きな疑問を持ち、問題提起をしていました。
「保険料収入を基礎にして健康サービスの供与が行われてよいのか」
「保険制度をとっているために往々にして独立採算、つまり保険料収入の範囲内で医療のサービスを賄うべき(という本末転倒が起こりがちである)」
「現行の日本の医療制度の矛盾は端的に言うと、悪い医療を供給すると、その病院はもうかり、逆によい医療を供給しようとすると、経営的にきわめて困難になる」
といったように、かなり手厳しい批判をしていました。日本の保険点数制度は他の先進国と比べ、医師・看護師など医療技術者の技術・サービス料がの点数が低く、逆に薬剤費、検査料が高く設定されています。
病院経営の数字を優先させると、医師・看護師など技術者の人員削減し、薬漬け医療が増えかねません。また、この傾向が続くと、現場の医療従事者のモチベーションも下がり、長期的には医師・看護師のなり手が少なくなるわけです。
一方、薬価については2年ごとに薬価基準の改定で、医薬品全体の単価は下がってはいるものの、医療の現場では薬価の高い新薬使用率が高くなっているため、国民医療費に占める医薬品の額は下がるどころか増え続けています。
つまり、医薬品の額が増えているのに、国民医療費の予算は削られていく一方なので、医療に関わる人材や施設に使われる予算がどんどん減っていっているわけです。
日本では、財政健全化のかけ声とともに医療費削減は仕方ないこと、国民の自己負担の増加や、医療施設の拡充や医療人材の育成費も削減されても仕方がないという論調へ誘導されていますが、OECD加盟国の中では、GDPに占める国民医療費の比率は日本は低い方であり、一方、国民医療費に占める医薬品費の比率は他の先進国と比べてもかなり高くなっています。(※注:日本の場合、診療報酬が「出来高払い」と「包括払い」に分けられ、統計上、医薬品の額が出来高払いの方だけカウントされ、包括払いの分が除外されているので、見かけ上は他の先進国とあまり変わらないように見えるそうです。)
宇沢は、とりわけ、2002年4月1日の診療報酬体系の改定で、さらに診療行為に関わる報酬が切り下げになったことを嘆き、「日本の医療の将来を極端に暗いものにする」と強く批判していました。
コロナによる医療の逼迫は、コロナは天災のようなものだから仕方がないということではなく、こうしたここ20年、30年の政策によって引き起こされた人災の側面があるということを私たちはしっかりと認識し、変えるべきところは変えていく必要があります。
(by インディーロム 渡邉修也)