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マーケティング再入門 
「宇沢弘文『社会的共通資本』を読む・その2:
ヴェブレンの制度主義、デューイのリベラリズム」

宇沢弘文は、「制度主義」の考え方を具体的な形で表現したものが「社会的共通資本」である、としています。(宇沢弘文「社会的共通資本」)

これから数回に分けて、制度主義とは何か、社会的共通資本とは何かを、宇沢の「社会的共通資本」などの著作から学び、自分なりに整理していきたいと思います。

まず「制度主義とは何か」ということですが、宇沢によると「制度主義とは、資本主義と社会主義を超えて、すべての人々の人間的尊厳が守られ、魂の自立が保たれ、市民的権利が最大限に享受できるような経済体制を実現しようとするもの」ということです。

制度主義を最初に提唱したのは、米国の経済学者ソースティン・ヴェブレン(1857-1929)だと言われています。

ヴェブレンは、ジョン・R・コモンズ、ウェズレー・C・ミッチェルとともに制度派経済学の基礎を築いた一人とされ、初期の著作「有閑階級の理論」は、商品やサービスの価格が高いほど需要が高まるという富裕層の顕示的消費行動を表した「ヴェブレン効果」という用語にもなっていて、社会学やマーケティング分野でも紹介されることも多い学者です。

宇沢は、ヴェブレンの制度主義の思想的根拠として、米国の哲学者ジョン・デューイのリベラリズムの思想をあげています。

デューイは教育者としても有名で、著書「民主主義と教育」の中で提唱した「教育の三大原則」は、日本の戦後の教育思想にも大きな影響を与えたとされています。

「教育の三大原則」については本連載の中で別途取り上げますが、デューイの思想は、宇沢の「本来リベラリズムとは、人間が人間らしく生き、魂の自立を守り、市民的な権利を十分に享受できるような世界をもとめて学問的営為なり、社会的、政治的な運動に携わるということを意味します。そのときいちばん大事なのが人間の心なのです。」(宇沢弘文「人間の経済」)という宇沢のリベラリズムに関する考え方にも大きく影響を与えているようです。

宇沢によると「社会的共通資本」とは、ヴェブレンの制度主義を考え方を、具体的な形で表現したものであり、制度主義の根底にはデューイのリベラリズムの思想があるがゆえに、「社会的共通資本は決して国家統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として、市場的な条件によって左右されてはならない。社会的共通資本の各部門は、職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規範にしたがって管理・維持されなければならない」としています。

余談ですが、宇沢によると、戦後GHQの指導下で作られた教育基本法は、当初デューイの教育思想をかなり色濃く反映したものであったものの、その後、文部官僚たちによって改変を繰り返されることによって別物になってしまったと嘆き、宇沢は理想とする教育を実現するため自ら中高一貫の学校の設立まで構想し、数学と英語の教科書作りまで進めていました。

数学については「好きになる数学」(全6巻、岩波書店)として刊行されましたが、英語の教科書は未完のままとなりました。(私は数学が苦手なので、宇沢の「好きになる数学」で学び直ししようかと思っています。)

(by インディーロム 渡邉修也)

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