マーケティング再入門
「新興国マーケティングから日本を考えてみる・その3:
ソーシャル・ビジネス・エンタープライズの判定基準」
「ソーシャル・ビジネス・エンタープライズ(SBE)」とは、ムハマド・ユヌスによる定義によると「自社を取り巻く社会にインパクトを与えながら、同時に利益をあげている企業」のことです。
コトラーは、SBEが成功しているかどうかの判定基準について、社会の経済的基盤強化という目的に照らして、以下の3つの基準をあげています。
- 可処分所得の実質的価値を高める(stretch)
- 可処分所得の使用範囲の拡大(expand)
- 可処分所得の金額を増加させる(increase)
「可処分所得の実質的価値を高める」というのは、財やサービスをより低価格で提供することです。食品や生活必需品が以前より安く購入できるようになれば、残りのお金を車やファッション、レジャーなどに使えるようになります。
日本の場合は、90年代後半以降からアベノミクスが始まるまで、多くの分野でモノやサービスの価格破壊が進み低価格化が進んだわけですが、賃金も低下したため、残念ながら可処分所得の実質的価値は高まっていません。
それに加え、90年代半ばまでは個人の消費品目に入ってこなかったパソコンなどのIT機器購入費、携帯電話・スマートフォンなどの通信費などが加わったことで、車やファッションなどへ回るはずだった可処分所得の比率と実際の支出金額は低下していったわけです。
アベノミクス以降は、上場企業などでは給与は若干アップしたものの、食品等で容器の外見は変えず内容量を減らすスティルス値上げや、2度の消費税アップとそれに歩調を合わせた生活必需品の値上げなどもあって、可処分所得の実質的価値の下落傾向は続いています。
なんとか、この状況から反転上昇させていく必要があるわけです。
2番目の「可処分所得の使用範囲の拡大」については、途上国の場合、パソコンやスマートフォンの普及を図ることで、デジタル・デバイド(情報量の差から生じる経済格差)を縮小するというものですが、日本の場合、情報機器の個人保有率は高いため、一見すると情報格差はほとんどないかのように見えます。
しかし実際は、ネット上で"情弱"という言葉が頻繁に使われているように、パソコンやスマートフォンを保有していたとしても、情報格差が生じます。この場合は、情報の"量"は同じだとしても、触れる情報の"内容や質"によって差が生じてしまうことを私たちは経験上知っています。
ですから、単に情報に触れる機会が与えられればよいというわけではなく、良質な情報に触れる機会を増やしていく必要があります。
ピケティが「21世紀の資本」の中で書いているように、生来の既得権に起因するような経済格差を是正していくためには、大量の情報の中から良質な情報とそうでないものを峻別し判断していく見識・良識を養うための「教育」が必要となります。(ただし、教育というものは、偏った方向へ導く際にも使われるため、細心の注意が必要となります。)
(by インディーロム 渡邉修也)