アンケート再入門
「第8回 統計調査と世論調査は、何が違うの?」
前回は、調査の目的に対して、どのような調査手法を用いるべきかを考えてみました。
今回と次回は、年末年始ということで、もう少し大きな視点で、調査やアンケートというものを考えてみたいと思います。
調査は、ざっくりいって、実態を統計的に把握するための調査と、意見やニーズを収集し取りまとめるための調査に分けることできると思います。
前者の代表的なものは、総務省統計局が5年ごとに実施している「国勢調査」や「社会生活基本調査」であり、NHKが毎年実施している「国民生活時間調査」などになります。
数年おき、毎年など、一定間隔で継続的に調査が実施されているので、調査時点の実態把握だけでなく、経年変化を見ることができます。これらの統計データは、あらゆる調査のベースとなる“基礎データ”として活用できますので、皆さんも機会があったら参照してみてください。ネットでも、速報版やダイジェストが公開・提供されています。
後者の代表は、マスコミが実施している内閣支持率調査や政策などに対する各種世論調査、そして、皆さんが仕事の中で実施しているマーケティング調査などがあげられます。
大手新聞社やテレビ局のようないわゆる“マスコミ”といわれるところが実施する世論調査は、内閣支持率調査など、繰り返し行われるものも多く、一見、信頼性が高そうな気がします。
実際に、そうした調査結果によって、世の中がある方向へ舵をきることも多々あるため、実態を淡々と記録していく公的な統計調査よりも、その影響力は大きく、それがゆえに責任も重大といえるでしょう。
一方、ネット社会になって以降は、新聞、テレビなどの世論調査のほかに、ネット上での世論調査もさかんに行われるようになってきています。
そこで問題として指摘されているのが、大手マスコミの調査結果とネットでの調査結果にズレや隔たりがあるということです。
例えば、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への日本の参加の是非を問うた主な調査結果は、以下の通りです。
それぞれ、参加すべきかどうかを単純に問うたもの、参加方針を表明した野田首相を評価するかどうかという間接的なものなど、さまざまな質問の仕方をしており、前後の質問内容も異なるため、単純比較はできないことは承知の上であえて一覧にしてみたものが下表です。
┌──────┬─────┬─────┬──┐
│ │ 賛成 │ 反対 │賛否│
│ │評価する │評価しない│ │
├──────┼─────┼─────┼──┤
│讀賣新聞 │ 51%│ 35%│賛成│
│朝日新聞 │ 46%│ 28%│賛成│
│日経新聞+ │ │ │ │
│ テレビ東京│ 45%│ 32%│賛成│
│毎日新聞 │ 34%│ 25%|賛成│
│共同通信 │ 39%│ 36%|賛成│
│NHK │ 34%│ 21%|賛成│
│NNN │ 44%│ 36%│賛成│
│日経電子版 │ 73%│ 27%│賛成│
│ダイヤモンド│ │ │ │
│ オンライン│ 42%│ 54%│反対│
│ロイター・オ│ │ │ │
│ンライン調査│ 27%│ 73%│反対│
│ニコニコ動画│ 21%│ 44%│反対│
└──────┴─────┴─────┴──┘
いかがでしょうか?ここでは、あえて個々の数字には言及しません。
少々、解説を加えると、新聞やテレビの調査は、無作為抽出の電話調査方式で行われており、せいぜい多くても数千人程度の規模で行われています。上記のTPPに関する調査では、朝日新聞で有効回答が1,857人、NNNで1,018人などとなっています。
一方、ネットのアンケートは、そのポータルサイトの普段の閲覧者や利用者のほか、ツィッターやフェイスブックなど、口コミ媒体のいわゆる口コミによる“拡散”によって、誰でも参加できるようになっています。
結果、ロイターは50,215票、ニコニコ動画は84,012人という数字になっています。
どちらが、本当の民意を反映しているのか、これを読んでいる皆さんの中でも意見が分かれることでしょう。
「電話調査は、昼間家にいる暇な人しか回答していない」とか、「ネットアンケートは、その時の口コミ拡散状況によって、大きく結果が左右される」などです。
このような議論は、今後も続くと思いますが、恐らく、マスコミの世論調査も、従来の電話調査とネット調査を独自の手法でミックスしたハイブリッド方式や、ネットのみという風に変わっていくのだと思います。(テレビの場合は、リモコンの赤青黄緑ボタンで投票ということもできますね。)
その過程で、偏りの少ないネット調査の手法が模索されていくことでしょう。
次回も、世論調査について、もう少し考えてみたいと思います。
それでは、皆さま、少し早いですが、よいお年をお迎えください。
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http://enqmaker.jp/
(by インディーロム 渡邉修也)